VUCA時代に向けた教育
「VUCA(ブーカ)」というのをご存知でしょうか?
・ Volatility(変動性)
・ Uncertainty(不確実性)
・ Complexity(複雑性)
・ Ambiguity(曖昧性)
「VUCA(ブーカ)」は、上の4つの英語の頭文字を並べた言葉で、「先の未来を予測出来ない状況」を表す言葉として使われています。例えるなら、「出勤して会社で仕事をする」ことが常識とされていた数ヶ月前の常識は、新型コロナウイルスの影響もあり、「テレワークを中心とした在宅勤務が常識」へと変わりました。長い年月をかけて啓蒙されていたもののなかなか実施されなかった「テレワーク」ですが、急速に変わる社会情勢により短期間で「常識」になったように、現代社会は不安定かつ、先の予測が難しい時代になっています。
さらに、AI(人工知能)やIoTなどの先端テクノロジーの発達スピードも増しており、2025年から2035年の間で、現在の仕事の49%の職業が機械に代替される可能性があると指摘されているほか、2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、今は存在していない職業に就くとの予測もされています。
では、現在の仕事の多くを機械が代替し、新しく生まれた職業が誕生するVUCA時代を生き残るためには何が必要なのか?
それは、「教育」であり、「学び続けること」だと言われています。
このような状況の中、日本の教育制度は、大きな変革を遂げようとしています。
■ GIGAスクール構想の実施前倒し
デジタル化が進んでいないと言われる教育現場が、急速なスピードでデジタル化を進めようとしています。文部科学省は、「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」を掲げ、全ての生徒に一人1台のデジタル・デバイスを提供する環境を整備すると共に、学校内に大容量高速通信網を整備することで、教育現場のデジタルインフラの整備を進めており、2021年3月末までに99.6%の学校で「生徒一人あたり1台」のデジタル・デバイス提供が実現される見通しです。
元々、「GIGAスクール構想」は、2023年度中の実施で計画されていましたが、新型コロナウイルス感染症による学校休業の影響もあり、計画を3年前倒しで行うことが決定されました。そして、整備が進んだことで、2021年度から授業は、「一斉学習から21世紀型の学習」にシフトする計画となっています。
■ 「一斉学習」から「21世紀型の学習」にシフト
教育現場のデジタル化が進む以前の授業は、教師が黒板に書いたものを生徒がノートに写す「一斉学習」が主流でした。「一斉学習」では、「教師=コンテンツ」のため、個々の子どもの理解度や進捗状況に応じた教育コンテンツを提供することが難しい点が課題としてあげられていました。しかし、「GIGAスクール構想」の実現により、生徒一人につき1台のデジタル・デバイスが提供され、高速インターネットにつながることで、個々の生徒の理解度や習熟度に応じた教育コンテンツを提供できるだけでなく、教師以外の専門家がオンラインで授業を行うなど、より高度な知識を有した専門家の授業も受けることができるようになります。
また、これまでは、「手を上げた生徒」のみが解答することが出来たものの、デジタル・デバイスを活用することにより、全ての生徒の解答が教室最前列の大型ディスプレイに表示されることで、個々の生徒の解答プロセスが共有されることに加え、新しい意見やアイディアなどをクラス全員で共有することができるようになると考えられています。
教育現場のデジタル化が進む一方で、様々な課題も浮き彫りになってきています。
■ 小学校から高校の教員約100万人がICTや指導法に習熟する必要
当然のことながら、「GIGAスクール構想」で整備されたデジタル・デバイスは、手段であり、目的ではありませんし、VUCA時代を生き残るために、デジタルテクノロジーを活用するための習得が必要になりますが、教える側の教員約100万人がICTや指導法に習熟する必要があると指摘されています。
そのため、政府は、最大9,000名のICT関連の企業OBらを「GIGAスクールサポーター」として、国公私立の小中高に派遣する計画を立てているものの、教える側の教師がICTを使いこなせるまでに時間を要することが見込まれています。
■ 21世紀型教育を妨げる固定概念
2018年に行われた「OECD/PISA 2018 ICT活用調査」によると、コンピュータの学校での使用頻度において、日本国内の学校の90%近くが「全くかほとんど使用していない」という結果になっており、「GIGAスクール構想」によりデジタルインフラが整備されたとしても、教える教師不足に伴う使用頻度が上昇しない可能性も指摘されています。
では、生徒たちはデジタルデバイスに慣れ親しんでいないのか?
同調査によると、
コンピュータを使って宿題をする:3.0%(22.2%)
学校の勉強のために、インターネット上のサイトを見る: 6.0%(23.0%)
- 関連資料を見つけるために、授業の後にインターネットを閲覧:7%(20.1%)
学校のウェブサイトから資料をDLしたり、アップロードしたり、ブラウザを使う: 3.0%(17.7%)
構内のウェブサイトを見て、学校からのお知らせを確認する: 3.4%(21.3%)
上記のように、「学習面」では全く使われていない状況です。
しかし、
ネットでチャットをする: 87.4%(67.3%)
1人用ゲームで遊ぶ: 47.7%(26.7%)
多人数でオンラインゲームで遊ぶ: 29.6%(28.9%)
Eメールを使う:9.1%(25.5%)
インターネットでニュースを読む:43.4%(38.8%)
※カッコなしの数字は日本国内の学校を対象とした調査、カッコ内はOECD(グローバル)平均
上記の結果からも分かるように、「学習」において、デジタル・デバイスは使用されていないものの、「学習以外」ではデジタル・デバイスが活用されている状況がわかりました。
これらから推測される原因として、デジタル・デバイスを「学習ツール」として認識していない固定概念が教育のデジタル化を弊害する可能性を持っており、VUCA時代に合わせて、デジタル・ツールを積極的に学習ツールとして用いることが、教育のデジタル化に不可欠であると考えられています。
■ 教育とテクノロジーのコラボレーションが加速
教育現場でデジタル化が進む中、教育業界とテクノロジーのコラボレーションが近年増加傾向にあります。また、これまで書籍として発売され、活用されていた「英単語帳」などは、デジタル化され、スマートフォンで見るのが当たり前になりました。
このような潮流の中、既存の教材をデジタルに置き換えるデジタル化ではなく、教育現場運営で蓄積されるデータを活用し、新たな教育サービスの提供に活かす取り組みをハイブリッドテクノロジーズ(当社)と、河合塾グループのKEIアドバンス様で進めています。
そこで、次回以降2回に分けてハイブリッドテクノロジーズとKEIアドバンス様の取り組みをご紹介させて頂きます。