DX化とIT化は何が違う?DX化の必要性やメリット・課題、成功事例もご紹介
DXとは
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語です。直訳すると”デジタルによる変容”という意味をもつ言葉ですが、ビジネスにおいてはデジタル技術を駆使して経営やビジネスプロセスを再構築する取り組みのことを指します。
現インディアナ大学工学部上級副学部長のエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した論文、「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」の中で用いられた言葉です。
DXについては、以下の記事にてより詳しく解説しています。こちらもあわせてご覧ください。
DX化とは
DX化とはデータやデジタル技術を活用しつつ顧客や社会のニーズに基づき、製品・サービスや経営を取り巻く環境を変革し、生産性を向上させる取り組みのことをいいます。
デジタル技術そのものに焦点をおいた取り組みではなく、「デジタル技術を手段として活用しながら企業のあり方や従業員の働き方を変えていく」ということです。
DX化を進めることで業務精度の向上や効率化に期待ができるだけでなく、常に変化が続く市場への柔軟な対応が可能になるため競争力の向上にも効果があります。また、万が一の緊急事態にスムーズな対処ができるような環境の構築にもつながります。
なお、DX化を進めるにあたって以下のようなプロセスがあると考えられています。
① デジタルテクノロジーの導入(組織化) ↓ ② ①で蓄積したデータを部門ごとに活用して効率化を図る(効率化) ↓ ③ ①や②で蓄積したデータを他部門でも応用できるような基盤をつくる(共通化) ↓ ④ ③でつくった基盤をより効率的に運用できるような体制をつくる(組織化) ↓ ⑤ よりデータを中心とした経営戦略が行われるようになる(最適化) |
DX化とIT化の違い
デジタル技術を活用するという特徴から、DX化は「IT化」に近い意味合いをもつ言葉であると感じた方も多いはずです。しかし実際は、DX化と異なる立ち位置にいます。
分かりやすくまとめると、DX化とIT化は以下のような違いがあります。
・DX化:IT化の先にある「目的」 ・IT化:DX化を実現するための「手段」のひとつ |
IT化とは、デジタル技術を活用して業務の効率化を図る取り組みのことです。生産性や業務効率の向上を目指すという方針はDX化と共通するものがありますが、あくまでIT化はDX化を果たすための「手段」と言えます。
昔は主な連絡手段として電話や手紙が使われていましたが、現在はEメールやチャットツールに置き換えられたことがIT化として分かりやすい例です。既存の業務において、従来はアナログで行っていたことをデジタル化して効率を上げようとする取り組みがIT化です。
とはいえIT化を果たすだけでは、作業時間の短縮や工数の削減といった「量的」なメリットしか得られません。業務にデジタル技術を取り入れることで(IT化)、ビジネスサイクルを素早く回す仕組みをつくり、結果的に「企業としての運用のあり方」を変化させてようやくDX化の実現となります。
もちろんIT化に取り組んだからといって必ずしもDX化へつなげる必要があるわけではなく、単に既存の業務効率を上げるためだけにIT化に取り組んでも問題ありません。ただし何故ITを活用したいのかを明確に定めていないと、ただ新しい技術を試しただけで何の利益も生まれない結果になる恐れがあります。
ちなみに、DX化とほぼ同じ意味をもつ「デジタライゼーション」という言葉があります。これはデジタル化による新たな価値創造を指しており、DX化と同義で語られることが多い言葉です。似たような言葉である「デジタイゼーション」は既存の業務やビジネスの効率化を図るというもので、DXのための手段として語られることが多いものになり、IT化のほうが意味としては近しいものになっています。
DX化が注目されているのはなぜ?
近年DX化への注目が集まっている理由としては、経済産業省が発表した「2025年の崖」が挙げられます。
2025年の崖とは、経済産業省が2018年に公表したDXレポートで用いられていた言葉です。レポートではDX化を実現していくうえでのITシステムに関する課題やその対策、今後の方向性が整理されています。その中で、「仮に日本企業がこのままDX化を推進できなかった場合は最大で年間12兆円の損失が生じる」と警鐘を鳴らしていました。
DXレポートで指摘されていた課題もあり、国は企業に向けてDX化の推進を促す支援政策を進めています。例えば国が策定した「情報処理システムの運用管理に関する指針」を踏まえ、DX化に向けた取り組みを行う事業者を認定する「DX認定制度」やITツールの導入に際して利用可能な「IT導入補助金」などが採用されています。
DX化に関する国の取り組み – DX推進ガイドライン
先述した支援政策に加え、経済産業省では経営者がDX化に取り組むための参考となるよう「DX推進のための経営のあり方や仕組み」と「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築」の2つに構成を分けてガイドラインをまとめています。
ガイドラインに記されている主な内容としては、以下の通りです。
・全社的にDXを浸透させるために経営層が取り組むべきこと ・DX化を推進できるような組織の整備について ・DX化実現の基盤となるITシステム再構築へ向けた体制づくりと人材について ・既存のITシステムの見直しと再構築の進め方 |
他にも老朽化した既存システムに対する問題意識や、既存のIT資産の分析や評価に関しても記されています。不要なシステムがあれば廃棄する、頻繁に変更される機能はクラウド上で再構築を図る…など、DX化に絡めて既存システムも刷新するべきというのが経済産業省の考えです。
DX化の主な目的
企業競争力を向上させる
デジタル技術を活用して新たなビジネスを始めたり、既存ビジネスにデジタルを取り入れることでサービスの質を良くできるDX化は、企業競争力が向上するという効果をもたらします。
DX化が進めば、常に変化が起きている市場に対する柔軟な対応を実現できる環境も構築されるためさらに競争力を高める一因となるでしょう。
また、人事においても既存の業務をIT化することで、今までは得られなかった人事データの取得が可能となります。取得したデータを分析・活用することも、競争力の向上につながります。
DX化はあらゆる側面で変革を起こし、企業成長の効果における期待を高める取り組みです。
業務効率化により生産性を向上させる
従来は紙媒体や人の手による作業といったアナログな方法で進めていた業務を、デジタルに置き換えることで作業時間が短縮されるため、生産性の向上につながります。業務における精度が高まることはもちろん、業務プロセスそのものの見直しも行うことでさらなる効率化も実現可能となります。
また、工数や人員の削減も可能となるためコスト対策にもつながるポイントです。
DX化のメリット
働き方改革が実現する
DX化を進める流れに伴い、一部の業務が自動化することになります。コラボレーションツールや社内イントラネット、プロジェクト管理ツールなど、自動的に業務を行える環境を整えることで、テレワークの導入や定時退社がしやすくなり従業員の労働環境改善につながります。
新規事業・新サービスの開発
DX化を実現させれば、新たな事業の創出やサービスの開発がスムーズに進みます。身近な話題として、無人コンビニにおけるAIカメラを用いた運用はDX化実現を果たした実例として挙げられます。
BCP対策になる
BCP対策とは、災害などの緊急事態に事業を継続するための計画を指します。例えば新型コロナウイルスが流行し始めた際、DXを導入した企業は業務がデジタル化していたおかげでスムーズにリモートワークへ移行するなど柔軟な対応がしやすくなりました。
「レガシーシステム」からの脱却
「レガシーシステム」と化した基盤システムを抱えている企業も、DX化で既存のシステムを刷新することでその現状から脱却することができます。
他企業に対する優位性の担保になる
「2025年の崖」の影響もあり注目度が高まっているDX化ですが、未だ取り組みが進んでいない企業は多いのが現状です。そのような中で積極的にDX化推進に取り組み、成功させれば他企業と決定的な差を付けることができます。
上記のように様々なメリットを得られるDX化ですが、いずれにしても企業における競争優位性を高めることがDX化の目的であり利点でもあります。もちろん新たな仕組みの導入に投資することも大切ですが、まずは既存のシステムを理解したうえでいかに効率化を進めるかを考えつつDX化を進めていかなければ競争優位性の担保に繋げることはできないでしょう。
DX化に伴う課題
DX化を進める人材がいない
DX化を進めるには、デジタル技術やIT知識に精通した人材の確保が必要です。社内にDX化を任せることのできる人材がいない場合、外部への委託を検討した方が良いでしょう。
DX化を実現するための資金不足
DX化を実現するには、まず既存の業務についてIT化を進める必要があります。IT化の推進に伴い、新たなシステムやソフトウェアの導入や開発にはコストがかかるものです。十分な資金を用意できなければ、DX化の実現は困難であると考えましょう。また、市場の変化へ柔軟な対応ができるように、中長期的な未来を見据えた資金計画を考えることも大切です。
既存システムが複雑化してIT化が進まない
既存システムを長期間使用していたことにより、システムが肥大化・複雑化してしまいIT化が困難になってしまうというケースもあります。対策法としては、少しずつ既存システムの把握を行うことから始めて徐々にIT化を進めていくと良いでしょう。
DX化の目的がはっきりしていない
「DX化を実現した先にあるメリットを得ること」ではなく、「DX化をすること」自体を目的として認識している場合は要注意です。DX化を実現したうえで企業をどのように成長させるのか、どのように競争を勝ち抜ける力を付けるのか…など、経営層が具体的なビジョンを定めたうえで取り組まなければDX化は上手く進みません。
DX化への取り組みに伴い様々な課題が立ちふさがりますが、懸念すべきは「DX化を任せることができる人材不足」です。未だ数は多くないものの、DX化に向けて動き始めている企業はこの先増えていくことが見込まれます。いち早くDX化を実現して他企業より優位に立てる競争力を付けるためにも、自社内における課題の把握と解決を急ぐことをおすすめします。
DX化を成功させるポイント
現場だけでなく経営層の参画も重要
DX化を進めるには、現場における各部門の協力はもちろんのこと、経営層やトップ層のコミットメントも必要不可欠と言えます。経営側がDX化にどのような価値を見出し、そのうえでどのように自社に変革をもたらすかを明確に示すことが重要だからです。
また、損失を過剰に恐れて中途半端な投資を続けていくよりかは、適正かつ思い切った投資を行いながらDX化に取り組むことで成功までの糸口が見えやすくなることでしょう。
明確に定めた目的・戦略に沿ったシステム導入
DX化を実現させた先に企業へどのような変革をもたらしたいのか?なぜDX化に向けて取り組むのか?という目的を明確に定めたうえで、その目的から逆算した戦略を立てることが大切です。
DX化を進めるにあたって、既存システムから新システムの導入は避けて通れません。しかし目的や戦略が曖昧なままでは、既存システムの欠点が見えないだけでなく自社に適したシステムを導入することもできません。やみくもに優秀なシステムを導入するだけでは十分な効果が発揮されないため、失敗に終わってしまいます。
中長期的な未来を見据えた計画を立てる
DX化は取り組み始めてから一朝一夕で実現できるものではなく、早くても1~3年程度はかかります。実際に成果が見られるようになるまでは、3~5年程度の年月が必要です。
そのためただ安易に新しいシステムを導入するのではなく、そのシステムを活用することで3~5年後に創造できる新たな価値とは何か?をイメージしながら取り組んでいくことが大切です。
DX化を推進する体制づくり
DX化の成功を目指すにあたり、いかに組織全体が一体となって取り組めるかという点も重要です。経営層がDX化実現のビジョンをしっかり定めていたとしても、現場にそのビジョンや目的が浸透されていなければ取り組みが思うように進みません。
レガシーシステムのまま運用を続けていくことのリスクを踏まえつつ、なぜDX化を実現するべきなのかという必要性を組織全体に浸透させて認識に統一感を持たせることが大切です。
DX化に成功した企業事例
トヨタ自動車
トヨタ自動車が展開している「月額定額制で乗り放題」というサブスクリプションサービスも、DX化により創造された新しいビジネスの形です。「車をモノとして所有すること」よりも「移動すること」に特化させた斬新なサービスで、若者の車離れが懸念される自動車業界の中でも企業として成長を続けるための道を切り開きました。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では、人事業務におけるDX化を実現しています。従来は経験や担当者の主観をもとにするという、アナログな方法で採用後の配属を決定していました。そこで、配属の意思決定をサポートする形でピープルアナリティクスを導入。これにより、人の手では気づけなかった人材の新たな可能性を見出すことにつながり、より客観的かつ公平に配属を決定することができるようになりました。
まとめ
DX化とは、デジタル技術を活用することで企業のあり方や製品・サービスにおける新たな価値を創造する取り組みです。IT化と混同されることもありますが、IT化はあくまでDX化を実現するための「手段」として覚えておきましょう。2025年の崖が懸念されている現在、いち早くDX化に向けて行動することが他企業と競争力の差をつけるためのカギとなります。まずは自社の既存システムにおける改善点を把握し、適切なシステムの導入を検討するところから始めてみましょう。