AI(人工知能)が切り開く21世紀型授業(前半)

投稿日:2021.02.25更新日:2026.06.08

前回のブログで、教育業界で進むデジタル化について紹介致しました。また、義務教育から150年の節目をむかえるタイミングでスタートした「2020年教育改革」の重点ポイントである「21世紀型教育」の実現に向けて、教育現場だけでなく、教育業界とIT業界がコラボレーションをするケースが増えてきています。このような中、ハイブリッドテクノロジーズは、EdTech分野に特化したAI構築と、システム開発の取り組み強化を目的に、大学受験予備校等を運営する河合塾グループのメンバー企業で、大学の経営課題解決に向けた事業やキャリアチェンジのためのスクール事業を展開するKEIアドバンスと業務提携を締結しました。

「教育のデジタル化」や「EdTech」という言葉を耳にする機会が増えた教育業界関係者も多いと思いますが、一方で、

改革が求められる日本の教育業界で今、何が起こっているのか?

今、何をしないといけないのか?

何から始めればよいのか?

教育のデジタル化でどのような独自性を出せるのか?

このような「不安」を抱く関係者も多いようです。

そこで、ハイブリッドテクノロジーズとKEIアドバンスが業務提携を締結した背景やAIの構築、そしてシステム開発を通して得た「学び」や「発見」などについて、KEIアドバンスの辰巳様、山口様(以下辰巳さん、山口さん)にインタビューを行いました。

■ 原点は、社会基盤に合わせた教育が必要という意識

ハイブリットテクノロジーズ広報担当(以下、HT広報)

今日は、ハイブリッドテクノロジーズとKEIアドバンスさんが業務提携を行うということで、概要や目的に加えて、開発を通して得た「学び」や「発見」についてインタビューをしようと思います。まず、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、「働き方」や「学び方」などが大きく変化して、先行きが全く予想できないVUCA時代が突如目の前に現れた2020年だったと思いますが、「これまでの教育」と「これからの教育」で求められるものは変わったのでしょうか?

KEIアドバンス辰巳様(以下、辰巳さん)

「教育」に求められることは、時代、時代で変化を遂げてきたと思います。

1872年に義務教育がスタートしたことを皮切りにこれまで4回の教育改革が行われてきました。
ただ、過去4回の教育改革の根幹は変わっておらず、社会基盤に合わせた教育が求められ、社会基盤に合わせた教育が行われてきていました。

例えば、第一回目の教育改革の際は、列強諸国に負けないために、経済力をつける必要があり、それを実現するために広く教育機会が与えられた背景があります。
また、戦後は、工業化に対応するための教育が施されてきました。
そして、現在においては、テクノロジーが進化し、多くの定型業務がAIを活用したロボティクスに置き換わる社会が出来上がりつつあります。そのため、現在の「教育」に求められるのは、テクノロジーにより代替可能な選択肢が出来た中、「どのようにしたらこのような時代を生き続けることが可能か」を自らが考え、自らの意思で実行に移せることを育む教育が必要とされていると思います。

(HT広報)

これまで経験した学校教育と文部科学省が制作した「GIGAスクール構想」のYouTube動画を見ると教育の中身ががらりと変わった感じを受けますね。

KEIアドバンス山口様(以下、山口さん)

これまでの教育は、テストのスコアや偏差値などの広範的な指標を最短で上げる方法が求められていたと思います。

しかし、近年は、「メンバーシップ型からジョブ型へ」という言葉にも表れている通り、各々が得意なスキルを身に着けることこそが重要であるという考え方になりつつあります。

また、「好きこそものの上手なれ」という諺がありますが、「知りたい」という好奇心と興味があれば、学校以外でも知識を手に入れることが可能になりました。別の言い方をすると、教育のデジタル化により、「●●がしたい」と興味を持てば、「したい」を実現するための方法にアクセスできる時代になってきています。

このような世界が広がると、これまでは「教師」と「生徒」の関係性がはっきりと分かれていましたが、今後はある分野では生徒が教師になり、別の分野では教師も生徒も生徒になるなど、「教える側」と「教わる側」の関係性がよりボーダレスになると考えられます。

(HT広報)

教育業界がデジタル化することで、最も変わったことと、変わったことで重要になるものはなんでしょうか?

(山口さん)

最も変わったことは、教育に関する質の高い無料のデジタルコンテンツが増えた点です。

無料で優良なコンテンツが増えるに伴って、教育事業者が単に「教育を与える」フェーズは終焉をむかえようとしていると考えています。これまでの教育は、教科書や長年の経験を経て培った教師の「知」を生徒に与えることが普通でした。しかし、今日では、その気になれば幾らでも「知りたい」と思うコンテンツにアクセスが出来ます。ですので、今後重要になるのは、「いかにして付加価値をつけた教育サービスを提供出来るか」だと考えています。

(HT広報)

付加価値をつけた教育サービスとは?どんなものでしょうか?

(山口さん)

これまでの一斉学習ではなく、個々の生徒の特徴を把握し、興味や理解度などに合わせた教育機会を提供することが求められていると思います。

(HT広報)

個々の生徒に適した教育サービスを提供する上で、個々の生徒を理解することが必要になってくる?

(山口さん)

はい。河合塾グループの場合ですが、個々の生徒を理解する際に大きな役割を果たすのは「チューター」です。予備校の場合、どうしても有名講師が話題になりやすいですが、講師の授業をもとに、個々の生徒の学習計画作成や合格に必要な入試対策などを二人三脚でサポートするのが、「チューター」の役割です。チューターは、機会的に学習プランを作成するのではなく、個々の生徒の個性や特徴、強み、弱みなど全体を把握した上でアドバイスを行います。結果、個々の生徒を誰よりも知るチューターの存在も、付加価値の一つとなっています。

(HT広報)

今回の業務提携で行なった開発は、AIを活用することで、チューターが行なってきた様々なケアの精度を上げるという認識でよろしいでしょうか?

(山口さん)

そのような側面もありますが、第一段階として行いたいのは、生徒とチューターのペアリングの最適化です。生徒もチューターも人間ですので、自分と感覚が近くて接しやすい人もいれば、苦手と感じる人もいる、という中で、教育業界においては教える側と教わる側のミスマッチがしばしば発生しています。このペアリングを最適化できれば、自ずとケアの精度を上げていくことにつながります。ですので、まずは個性、特徴、学習履歴等を収集しながらAIを活用して生徒とチューターのペアリングを最適化し、その延長線上に、個々の生徒に特化した学習支援の世界があると考えています。

(HT広報)

個々の生徒およびチューターの個性や特徴、学習履歴などをAIに学ばせることで、個々の生徒に適した教育を提供するとのことですが、河合塾グループがこの取り組みを行う理由はなんでしょうか?

(山口さん)

個々の生徒に適した教育を提供する必要性が増していく、という考え方自体は、ある程度教育関係者に共通しているように感じます。これまで多くの生徒や保護者の皆様から信頼をいただいている河合塾グループだからこそ、長年培ってきた教育に関する知見やノウハウを生かしながら、先んじてこのような取り組みを行うことで、教育の在り方を変えていくことができるのではないかと考えています。

(HT広報)

河合塾グループが培ってきた教育における知見やノウハウとデジタルを掛け合わせた取り組みになりますが、一方で教育現場でデジタル化が進まないのではないか?との声も聞かれます。教育界でデジタル化が進まない要因はなんだと思いますか?

(山口さん)

デジタル・トランスフォーメーション推進は企業においても最重要課題になっていると耳にしますが、教育業界がデジタル化しない理由と企業のデジタル・トランスフォーメーション推進が進まない根本の理由は似ていると考えています。

多数のEdtechカンパニーの台頭やコロナの影響もあって、状況は変化しつつあると思いますが、確かにまだまだ進んでいない側面もあります。教育業界ではない一般的な企業において、デジタル・トランスフォーメーション推進が進まない理由の一つに「既存のシステムでもある程度機能している」と現場が考えているから、という話を聞いたことがあります。既存のシステムが機能していると感じているのであれば、新たなシステムを構築するのに二の足を踏むのは当然かと思います。これと同じように、教育業界のシステムもある程度出来上がっていると思われていることに加え、既にある程度の信頼があるので、アップデートを行うことに対する危機感が薄いことが原因だと思います。

(HT広報)

発展途上国や新興国の方がデジタル・トランスフォーメーション推進が進んでいるという調査結果も聞いたことがありますね。

(辰巳さん)

教育においても同様だと思います。私はアジア諸国での滞在経験が長いですが、新興国や発展途上国の多くは、「親世代」が画一的な教育を受けておらず、親世代が子どものころは、どのような教育制度が良いかを模索していたと思います。そのため、便利であればどこよりも先んじて実施してみるという風土があるので、日本に比べて進んでいるように見えるかもしれませんね。

ですので、日本の教育業界のデジタル化が進まない一つの原因として、既存のシステムでも十分に機能しており、アップデートを必要としていないというのはあると思います。その意味でも、今回のAI構築と開発、そして、今後の結果次第によっては、大きく教育界のデジタル・トランスフォーメーション推進のきっかけになる可能性も感じています。

さて、「AIが切り開く21世紀型授業(前半)」はここまでとなります。

AIが切り開く21世紀型授業(後半)」では、AI開発のプロセスに加え、AIが学んだ膨大なデータをどのように活かすかなどをレポートしたいと思います。

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